仙台高等裁判所 昭和30年(く)7号 判決
よつて、被告人外一名に対する福島地方裁判所昭和二十九年(わ)第一一四号、第一一五号、第一三〇号及び第一三七号恐喝被告事件記録を調査するに、被告人は起訴前の昭和二十九年九月二十九日恐喝被疑事実に基き同裁判所裁判官の発した勾留状の執行を受け爾来勾留を継続されたこと、公判審理中の昭和三十年五月二十一日主任弁護人から保釈の請求があつたが、同裁判所は同月二十四日被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとして右請求を却下する旨の決定をなしたことを各確認することができる。
そこで、原決定の当否について検討するに、かりに、申立人主張のように、公判期日において検察官、被告人双方の立証を完了し、被害者の全部が公判期日において証人として取り調べられ、その中の大部分が公判期日前の請求により証人として裁判官の尋問も受けその供述内容は前後一致しており、共犯者とされている者もまた公判期日において証人として取り調べられ、かつそれ自身の被告事件についてすでに或は判決の宣告を受け或は審理を終了したものとするも、必ずしも所論のように罪証を隠滅する虞の全くない状態に至つたものと断ずることはできない。のみならず、前掲記録によれば被告人に対する公訴事実は単独若しくは共謀による二十四箇の恐喝の事実であつて、事案の内容は複雑多岐に亘り、被告人は公判において終始犯行を否認しており、原決定のなされた当時において検察官請求にかかる証人の取調は一応完了したが、弁護人請求にかかる証人の取調は未了の段階にあり、現に原決定後の同年五月三十一日の第二十一回公判期日において弁護人の請求により証人五名を喚問する旨の決定がなされ、右証人調の行わるべき公判期日として同年六月十四日、同月十八日の両日が指定されていることが明らかであり、以上事案の内容、訴訟の経過等に記録に顕われた諸般の情況を綜合するときは、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由を認めえないわけではない。されば、原決定が刑事訴訟法第八十九条第四号の場合に該当するものと認めて主任弁護人のなした保釈の請求を却下したのは相当であつて、本件抗告はその理由がない。
(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 細野幸雄 裁判官 有路不二男)